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読書メモ(断片):『夜と霧』

▼クリスマスである。私の日記(ブログ)を長年、ご覧下さっている方にとっては「例年恒例」となるが、私にとってクリスマスには『夜と霧』を読み返しが含まれる。
  • E・フランクル, 池田 香代子 訳(2006). 夜と霧 新版. みすず書房
 『夜と霧』についてはご存じの方も多いかと思うが、心理学者フランクルが、ナチスドイツの強制収容所での実体験を描いた著作である。私には、絶望を感じずにいられない時は欠かせない愛読書であると同時に、ついつい浮かれてしまいそうになった時に、自制(あるいは自省)のために手に取る本の一つである。
 ※本来は何らかの目的を超えて(理由を問わずに)、読まれるべき本だと思うが。

 今回は、フランクルが強制収容所において、ささやかな(しかし深刻な)疑問を連鎖させている場面をご紹介しよう。私は仕事上で、「リフレクションの支援」とか「疑問の誘発」をテーマの一つとしていたりする(内省を促すとか、省察を活性化するとか、他にも言い換えることができると思われる)。しかし、フランクルのこの一文を読むと、一体、「疑問」とは何なのか、それ自体を問わなければならない気にかられる。
 わが身にてらせば、こんなことがあった。ぼろ靴につっこんだ傷だらけの足の痛みに泣かんばりになりながら、わたしは極寒のなか、水のような向かい風をついて、長い行列を作って収容所から作業現場までの数キロの道のりをよろめき歩いていた。わたしの心はこの惨めな収容生活にまつわる些細な懸念を、絶えずくよくよとなぞっていた。今日の夕食はなんだろうか。今日の「おまけ」はたぶんソーセージひと切れだろう。これは、パンと交換したほうがいいだろうか。二週間前に「褒状」とひきかえにもらった煙草は、最後の一本が残っているが、あれはスープ一杯と取り替えた方が得策だろうか。どうやって針金を見つけよう、靴紐の代わりにしていたやつが切れてしまった。今から行く現場では、勝手のわかった作業グループに入れるだろうか、それとも他グループに編入されて、怒りっぽい、人をいたぶることをなんとも思っていない監督のもとで殴られるのだろうか。あるいは、あのカポーに取り入るにはどうしたものか。彼となかよくなれば、まあ、ありそうまない僥倖だが、収容者労働者として収容所内に配属され、もうこんなぞっとする行列を毎日しなくてもすむのだが。 
 明日がどんな未来なのか、考えすぎる(考えざるを得ない状況に置かれる)のも不幸なことだが、考えすぎないのも不幸なことである(※もっとも、後者の場合、第三者による判断であって、本人には「不幸」という価値判断は成立していないが)。

 平時において、さまざまな選択肢を考えつつも、しかしそれを「考えすぎない」ためにはどうしたら良いののだろうな、などと考えてみたり。

▼もう一つ、対極的な話題を一つ紹介しておこう。疑問の連鎖に対して、疑問の喪失(あるいは防衛的無関心)とも言える状態である。
 新入りは、往々にして便所掃除や糞尿の取り組みを受け持つ作業グループに配属された。糞尿の汲み取りを受け持つ作業グループに配属された。糞尿は、でこぼこの地面を運んでいくとき、しょっちゅう顔にはね返るが、ぎょっとしたり拭こうとしたりすれば、かならずカポーの一撃が飛んできた。労働者が「上品ぶる」のが気にさわったのだ。
 こうして、正常な感情の動きはどんどん息の根を止められていった。被収容者は点呼整列させられ、ほかのグループの懲罰訓練を見させられると、はじめのうちは目を逸らした。サディスティックに痛められつけられる人間が、棍棒で殴られながら決められた歩調を強いられて何時間も糞尿のなか行ったり来たりする仲間が、まだ見るに耐えないのだ。数日あるいは数週間もたつと、被収容者はもう変わっていた。朝、まだ暗いうちに、作業グループとともにゲートの前で行列の出発を待っているとき、彼は叫び声を耳にする。そちらを見ると、仲間が何度も地べたに殴り倒されていた。立ち上がってはまた殴り倒される。(略)ながめる被収容者はすでに心理学で言う、反応の段階にはいっており、目を逸らしたりしない。無関心に、なにも感じずにながめていられる。心に小波ひとつたてずに。
 人間には(※人間に限らないが)、「学習」という能力がある。しかし、一歩間違えば、防衛的に、あるいは無気力から、学習の放棄に至ってしまうこともある。何を、どんな風に「学習」することが、人類にとっての「幸せ」(あるいは「平和」)につながるのか。

▼そんなことを考えられることに感謝しつつ、クリスマスの1日を過ごしてみたり。

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