読書メモ(断片):QWERTYのナゾ(進化するネットワーキング)
▼所用で、QWERTYキーボード(パソコンや電子辞書等の標準的キーボードの名称)について下調べ。何故に、キーボードは今のような配列になったのか?知る人ぞ知るネタで、私も、よく小ネタ的な話題で使っていたのだが、今回久々に知識をリフレッシュした。例によって備忘録的で恐縮だが、メモをしておこう。
- 林 紘一郎, 湯川 抗, 田川 義博(2006). 進化するネットワーキング 情報経済の理論と展開. NTT出版
▼以下、本書の「QWERTYのナゾ」からの抜粋。本書によれば、QWERTYキーボードの歴史は以下の通りである。以下、一部を抜粋・編集を加え、箇条書きとした(pp.43-45の抜粋)。なお、参照元になっているのはDavid, P. (1985). "CLIO and the Ecinomics of QWERTY," American Economic Review: Papers and Proceeding, Vol.75, No.2.
●1873年にショールズ(Christopher Latham Sholes)が開発。
●当時のタイプライターは早打ちをすると隣り合わせの棒がこんがらがって、ジャム(注:タイプライターの実物を見たことがない人はイメージしにくいと思うが、二つのキーが重なってしまうこと)を起こすという欠陥があった。
●その後、ショールズは6年間を費やしてジャムを起こさないキーボードの並び替えを行った→その成果がQWERTYキーボード
ここで重要なのは、QWERTYキーボードは、「ジャムを起こさない」という目的を達成するためにデザインされたもので(打鍵スピードを落とすことを目的としている)、効果的に入力するという点には主眼が置かれていない点にある。
この問題に対処すべく、次のような動きがあったそうだ。
●この問題を解決すべく、ワシントン大学のドボラク(August Dvorak)は、DSK(Dvorak Simplified Keyboard)を開発。使用頻度の高い(全体の70%)AOEUIDHTNSを集中させ、残りの22%を上部の列、8%を下部の列に配列。打鍵速度が高まることを実験で検証。(pp.44-45.から抜粋)
しかし、である。QWERTYキーボードは生き残り、ドボラクのDSKは淘汰された。便利で、効率的だからと言って、必ずしもそれが生き残る訳ではないらしい。
▼著者が準拠している、David(1985)の研究によれば、3点の教訓が挙げられるらしい。第一は、「偶然」の影響。第二は、「固定化」と呼ばれる現象。第三は、「経路依存性」である。著者の引用をそのまま引いておこう。
Daivid(1985)は、このケーススタディの教訓として3点を挙げる。第1は「歴史的な小さな事件あるいは偶然(historical small event or accident)」が決定的ともいえる影響を与えることがあること。これは裏から見れば、市場の選択が常に合理的とはいえず偶然の要素が残ることを意味するので、市場原理を第一義とする経済学にとって、基本的な問いを投げかけられたことになる。第2は「固定化(lock-in)」、すなわち偶然にすぎないものが不動のものになること。第3は「経路依存性(path-dependence)」によって、それ以後は道が決まってしまい別の方法は選べないことである。ちなみに、この論文の表題の現代のClioとは、ギリシャ神話の「歴史の女神」である。(太字は引用者による)(p.46)
この手の話題でよく使われるのは、かつてのベータ式のビデオと、VHS式の競争において、VHSが生き残ったという事実である(性能としてはベータ式の方が優れていたというのが一般的な見解である)。あるいは、マイクロソフトとアップルの競争なども、同じような文脈で語られることも少なくない。要するに、良いものだからと言って必ずしも「生き残る」とは言えないのである。
▼個人的な話で恐縮だが、ある程度、長いことパソコンに接している人間にとっては、キーボード一つとっても、今の規格は自明ではない。私は、高校時代にFM-TOWNSという富士通の独自規格のパソコンを使っていたこともあって、「親指シフト」と呼ばれる独自の日本語入力システムも使えたりする(おそらく指が覚えているはず)。
今となっては、「キーボードはキーボードじゃない」と言われてしまえば、それで終わりで、それ以前を知ってもらうためには、歴史を振り返る必要がある。世の中の多様性を理解するためにも、歴史を学ぶ必要もあるのかもしれない。
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