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読書メモ(断片):必笑小咄のテクニック

▼米原万里氏は、私が好きなエッセイストの一人である。過去にも『不実な美女か貞淑な醜女か』や『魔女の1ダース』などに、抱腹絶倒&感心・歓心させられてきたが、本書は米原氏が贈る小咄の方法論&傑作集である。
 これまで私も小咄集(ユーモア集)のようなものは、何度か手に取ったことがあった。しかし、小咄の「方法論」について述べられた書籍は、著者が指摘するように見たことがなかったかもしれない。もっちも、本書を読んだからと言って、小咄の創作がうまくなるとは思えないが、小咄に対して造詣が深くなることは間違いない。

▼本書では小咄の方法論的分類として、例えば、「悲劇喜劇も紙一重」「動物と子どもには勝てない」「お株を奪って反撃」「木を見せてから森を見せる」「誇張と矮小化」「絶体絶命の高揚」「権威は笑いの放牧場」などを披露して見せている。いずれの場合も、小咄というのは読者(聞き手)のミスリードと、オチとの落差を愉しむものらしい。

 例として、情報提供の順序を変えることによって、小咄を作る場合を見てみよう。

▼次の話題から、いかに小咄を「作る」か。
当館の訪問者数はあまりにも少ない。世界的にも希有な歴史的遺構や異物を数多く展示しているというのにもったいないことです。(p.38)
 これを米原流に調理すると、以下のような小咄になる。
「この博物館は世界的にも大変貴重な、希有ともいえる歴史的遺構や異物の宝庫ですよね。なかでも最も珍しいものは何ですか?
「訪問者ですね」(p.39)
 座布団一枚!という感じである。本書では、これ以外にも多数の「例題」が用意されているので、小咄のテクニックを磨きたい人にももってこいである。

▼紹介ついでに、Hop Step Jump 的な連続性(著者は「神様は三がお好き」と呼んでいる)を狙った小咄の例として、著者が挙げている例を見てみよう。
 国連が加盟各国の国民に対してアンケート調査を実施した。

 「他の国の人々が食糧不足に苦しんでいるという状況について、あなたのご意見をお聞かせください」という、一見単純きわまりない質問なのだが、世界各国で人々が回答不能に陥るという自体が発生した。その理由は以下の通り。

 アフリカの多くの国々では、「食糧」という概念を理解できない者が続出した。

 西欧諸国では、「不足」という概念を理解できない者が、とくに若い世代で多かった。

 社会主義諸国では、「意見」という概念を理解できない者が大半を占めた。

 そして、アメリカ合衆国では、ほとんどの国民が、「他の国の人々」という概念を理解できないことが判明した。(p.103)
 ブラックな小咄と言えば、ブラックだが、この手の要素抽出力というか、異なる視点から物事を鳥瞰しようとする姿勢には、感銘を受けるばかりである。私的にも、このネタは、社会調査的小咄としても使えそうだ。

▼ちなみに、著者は、「シモネッタ・ドッジ」の雅号を、氏の師匠から与えられたほどの「シモネッタ」の好手である。本書にも随所に、「シモネッタ」が満載されているのだが、それは是非、本書を手に取ってご堪能いただきたい。氏の小咄クイズに悩まされながらも、著者が引用する小咄に、何度も抱腹絶倒させられたことを改めて記しておきたい。

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