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読書メモ:哲学思考トレーニング

▼移動中、『哲学思考トレーニング』を読む。6月1日時点の筑摩書房の「近刊案内」では、「疑う技術・疑わない技術 ―哲学的クリティカルシンキングのすすめ」という仮称が付けられていたが、無難なタイトルに落ち着いてしまった。「哲学思考」よりも、「哲学的クリティカルシンキング」の方が、本書の内容にふさわしいと思うのだが、前者の方がより一般受けするのかしらん。そこらは出版社的事情か。
▼著者の伊勢田氏の本は『疑似科学と科学の哲学』で、実は、読んだことがあった(こちらは専門書。そういえば読書メモで紹介したことがなかったな)。専門書を改めて読み直してみつつ、再度、新書を手に取ってみた思ったのだが、本書は専門書と同等のクオリティを維持した、しかし格段に読みやすい入門書である。最近、薄っぺらい新書が少なくないが、本書は、そういう意味ではかなりお得かも。
 「反証可能性」や「通約不可能性」などという、科学哲学分野ではおなじみの用語もかなり詳しく説明されているし(ああ、こういう説明の方法もあるんだな、と納得させられた)、取り上げられている事例も、「車と航空機はどちらが安全か」や「地球温暖化」の現状をどのように捉えるか、など考えやすい例が多いのも良い。

 クリティカルシンキング本の多くは、心理学的な説明や事例がどうしても多くなってしまうし、ビジネス書では事例にものすごく偏り(や無理)があるので、科学哲学的な観点からクリティカルシンキングそのものを捉え直すのにも良い契機になりそうだ。

▼ついでに、説明のわかりやすさについてもメモをしておこう。

 たとえば、通約不可能性については、以下のような説明がある。
 通約不可能性とは、二つのグループがまったく違う世界観で世界を見るために基本的な出来事さえも違って見え、そのために話が通じなくなるという状態をさす。(p.222)
 どこぞやの辞書的定義よりよほど、すっきりした説明である。本書では通約不可能性を防ぐための方法して、情報発信者側のクリティカルシンキングの重要性について触れられているのだが、そこでは以下のような解説が行われている。
 情報発信者の側から見ると、通約不可能性が存在するということは、自分が発信した情報が思ってもみないやり方で解釈されるかもしれない、ということを意味する。
(引用者改行)
自分では科学的な情報提供しているつもりが、相手にはアメリカ政府の先棒をかついだ宣伝活動にしか見られていないといった状況では、言ってることもまず全然理解してもらえないだろう。そんな場合は、相手の視点から見ても理解できる言葉で情報発信する必要があるだろう。(p.226)
 これは地球温暖化の論争の文脈を引き継いでいるのだが、「通約不可能性」の説明としても、また、それを防ぐ方法の一例としても、分かりやすい。これら以外にも、科学哲学を理解するにあたって必須の概念が多数登場するため、かなり勉強になる。

▼ちなみに自動車と航空機のどちらが安全か?は、なかなか面白い考察。結論については、ここで書いてしまうと面白くないので、本書を是非ご覧あれ。

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