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読書メモ:「学び」を問いつづけて

▼オリジナルは2003年8月に書かれたものです。

▼本全体の紹介ではなくて恐縮だが、『「学び」を問い続けて』に収録されていた「『独学』の教育的意味をさぐる」が興味深かったのでメモしてみる。
 私は研究ネタとしては「独学」とちょうど対極的な対象を扱わせていただいているにも関わらず、対立軸として独学についてはあまり考えたことがなかった気がする。
 意外なところ(?)が盲点だったかもしれない。

▼本論考(初出は1975年の『教職研究』誌の9月~12月号とのこと)では、独学の条件が4つに整理されていて分かりやすい(以下、若干表記変更)。
  • (イ)学習目標の自由選択
    「何を」学ぶかについて、学習者は完全に自由な選択を行える
  • (ロ)学習手段の自由選択
    「いかに」学ぶか~すなわち、どういう手段を通して学ぶか~についても、学習者が完全に自由な選択権をもっている。
  • (ハ)学習目標の妥当性
    「何を学ぶか」について「選ばれた学習目標が」が、たしかに、教育的視野からみて「のぞましいもの」となっている。
  • (ニ)学習手段の有効性
    「いかに学ぶか」についても、学習者が自らの判断と選択によって採用した手段が、「有効な」(つまり効果的であり、能率的でもある)ものであり、学習の結果が、他の教育機会(たとえば系統的学校教育)によった場合と比較して、勝るとも劣らぬせいかを生み出す
 独学というと「自由選択」の側面が強調され、(ハ)や(ニ)に示される「妥当性」や「有効性」が見過ごされることが多い気がする。確かに、自由選択することもも容易ではないが、妥当性や有効性の検討はもっと難しい。

▼佐伯氏が述べるには、独学の落とし穴の一つは「迷信行動」にある。言い換えれば、偶然の成功を、必然的に見なしてしまう点が問題だ。。
人間というものは、ハトと同じで、自分が行ってみる「試み」は必ず何らかの「成果」をもたらすものと思っている。長い年月にわたって、何の成果もなく、誰からも評価されない状態で、「独りで」学んでいくことは至難の業である。このような状態が長くつづくと、(略)、きわめて「迷信行動」におちいりやすくなり、「ちょっとした偶然的成功を過大にうけとり、論理的吟味や慎重や検証過程を経ずに「ああやったからうまくいったのだ」と信じ込む(p298)
 これはいわゆる「確証バイアス」の問題に近い気がする。確かに、独学の場合、独りでやっていることから生じる思い込みがこのようなバイアスを増す可能性は確かにありそうだ。

▼もう一つ指摘されている落とし穴は、社会心理学的には「認知的不協和」と呼ばれる現象である。佐伯氏は、「艱難汝を玉にす」という諺(私は大学受験時代によく聞かされた記憶がある)を引きながら、次のように書いている。
艱難が多ければ多いほど、われわれの認識がゆがめられ、うけ入れるべき事実をうけ入れ難くする可能性もあることは十分銘記すべきであろう(p302)
 成功体験から脱することが難しいように、これまたの積み重ねと、孤独さが認識をさらにゆがめる可能性もある、ということだろう。

 もっとも両者ともに「独学」に限らず、どんな学習形態でもあてはまりそうだ。集団で「迷信行動」に陥ることの悲劇は、世の中至る所で見うけられるし、艱難もまた集団を通して必要以上、増幅される危険性もある。

 佐伯氏によれば、真に独学できる人間とは、次のような学習者とのことだが、私は、これに「協調」とか「集団」という言葉を当てはめてみたた。
「独り」でいながら、決して「独りだけ」にならない人間、「孤独」に耐えながらも決して「孤独」におちいらない人間、こういう人間だけが真に「独学」できる人間であろう。(p303)
 もしかしたら真に「独学」できる人間は、実質的には協調的で、真に「協調的」に学べる人間は、実質的には「独学」的なのかもしれない。なーんて、またしても永遠の循環に入り込んでしまっているような気もしますが…。

▼本書は、著者の比較的、昔の学習・教育に関するエッセイを集めた本。最も古いのは1973年だから今から30年近く前である。何ら古びている感じを受けないのは、世の中が変わっていないから、というよりは、プラトン以来の「本質的な問い」が描かれているからなのだろうな。
 ↑は、私が大学時代、最も影響を受けた本の一つである。これも初版は75年。あれから何が変わって、何が変わっていないのだろうか。

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