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読書メモ:本人の日々

本人術
 先月の日記にも少しだけ書いたが、南伸坊氏の『本人の人々』は実に愉快だ。

 書店的にはサブカル本の棚に置かれているらしいが、学術書としてもおかしくない。  南伸坊氏が、さまざまな時の有名人に扮して(変装)、一言述べる、という考えようによっては大変気色悪い企画なのだが(とりわけ梅宮アンナとかデヴィ夫人や、叶美香(に扮する南伸坊氏)などは絶句系)、氏が体現された「本人術」は、心理学的な他者理解=自己理解の方法論としても有効と考えられる。

 「段取り力」やら「質問力」で知られる氏ならば、「本人力」と名づけるところだろう。「力」ではなく「術」とするあたり、味が出ている。

本人になってみる、という経験
 「本人術」では、単に人の文体を真似る、模倣する(アリストテレス風にいえばミメーシス)のみならず、その人の姿、格好も含めて模倣することで、文章にも「本人らしさ」が、一層にじみ出るのが特徴だ。氏曰く、
 私は、さまざまな本人になってみた。そうして、その本人の身になって文章を書いたのである。(略)
 不思議なものだが、そのようにして書くと、ごく自然に自分の文章とは違う文が書けるのである。外見は内面を写すが内面は外見に左右されるのだった。女装をすると、たいがいの男は女っぽくなるのだが、これと同じようなことが、もう少しビミョーな具合におこっていると考えて大きく間違わない。(pp.11-12)
 実際は、「本人の身になった写真を、鏡を見るように『見ながら』本人としての言葉をつむぎ出す、という手順になったことが多かった。」そうだが、実際に「本人になってみる」という段階が重要なのだと思われる。

 心理学の世界でも、「内面は外見に左右される」という点は以前から指摘されている知見ではあるが(たとえば、悲しいから泣くのか、泣くから悲しいのか=情動の二要因理論は…あんまり関係ないか)、それを高度なレベルで実践しうるのが南氏のなせる技、と言えよう。

村上龍と竹中平蔵
 具体例がないと分かりにくいかもしれないので、ここでは2名の「本人術」をご紹介しよう。本書は、もともとは雑誌(『ダカーポ』)の連載記事のため、雑誌風の「編集術」の効果を引用では紹介できないのが残念なところだ。

 たとえば、村上龍(に扮する南伸坊氏)曰く、
リュウ?俺は違うよ一介のホームレスよ
 もっとも大事なことは、生きのびるためのスキルだと思う。どこに行けば、ベストセレクションで賞味期限オーバーの弁当があるか、段ボールやアルミ缶をゲットできるのかって情報の収集能力とか、正確さ、スピードが問われていると思うんですよ。
 必要なのは「自分で考え判断することの大切さ」なんであって、どん欲にポジティブに生きてく、最終的にフィジカルの力だしモチベーションだと思うなあ。(p.30)
(注:太字はキャプション。インタビュー記事風に読もう)
 うわー、確かにホームレスっぽい村上龍だ(二重の演出になってる)。 
 あるいは、竹中平蔵(に扮する南伸坊氏)曰く
一寸先は闇というのが世の中の実相です
 これは、お断りしておきますけれども、あくまでも一般論であって、私のコメントの片言隻句を深読みといいますか、針小棒大に誤解をされるようなことが、ままあって、大変コマったことであると思っているわけでありまして。(p.58)
 確かに、竹中さんってそういうこと言ってますね。そういえば彼の講義でも、経済学の「前提条件」がさらっと、しかし確実に語られていたのかも。

 以上、「本人術」のほんのさわりをご紹介させていただいた。やっぱり書籍を離れると引用も効果がない…ような気がするので、これ以上の詳細は手に取るしかないでしょう(たぶん)。
 本書では、さまざまな著名人総勢70名(なんとあの「タマちゃん」もいる)になりきった南伸坊氏の芸を楽しめて、結構、お得(?)かもしれない。

追伸
 本当は南伸坊氏風の「本人術」を活用して何か書いてみようと思ったのだが、さすがに姿格好は…。まだ自分を捨てきれないかも。

 これを高度化させてプラトンに扮してみたり、デカルトに扮してみたり、ニーチェに扮するようになれると、たぶん賢くなれるような気がします。もうちょっと修行して、ガンジーっていうのもありか。

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