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読書メモ:ナレッジマネジメント5つの方法

▼オリジナルは2003年6月に書かれたものです。

▼6月1日からお送りしている「よくわかるナレッジ」シリーズの最終日(連載ものだったのか!)では、読書メモとして最近出たばかりの『ナレッジ・マネジメント5つの方法』を取りあげてみよう。
 組織やチームの知識の共有方法に関する本である。業界用語的には「知識移転(transfer)とも呼ばれているらしい。このtranferという言葉はなかなかクセモノで、業界によって訳語や概念が微妙に異なるようだ。まず、私がある程度知っている分野について、概念を整理してみた。

▼学習や教育の分野で「転移(transfer)」といえば、ある状況で学んだ知識を、別な状況で(新たな学習のために)用いるはたらきのことを指す。

 「学校で勉強したことって、生きていく上ではあまり役に立たないよね」という嘆きを、業界風にとなえるならば、「学校で学んだ知識って、他の状況には転移しにくいんだよね」という嘆きになる(はず)。

 このあたりの事情は『授業を変える』に詳しい。
 誰もが学校で学んだ知識は、卒業後、あるいは日常的な状況で応用可能であって欲しいと願っているはずだが、実際的には、知識の転移は難しいと言われている。知識にはある領域があり、状況や文脈が異なると、以前学んだ知識をうまく活用できなくなってしまうのだそうだ。
 かといって先行する知識(既有知識)がなければ応用もできない。

 この制約を、いかに乗り越え、用いるかはこの業界でも課題のようだ。

▼臨床心理の世界で「転移(transference)」といえば、クライエントがカウンセラーに向ける感情やイメージのことを指す。逆に、カウンセラーがクライエントに向ける感情は「逆転移(counter transference)」と呼ばれている。

 フロイト派やユング派や、ラカン派など、立場によっても「転移」の捉え方は違うらしいのだが、「転移」は重要な治療プロセスである。

 一般に、クライエントは自身の感情を内に抑圧したことが、何らかの症状につながっていることが多いとされる。このような無意識的な抑圧が何らかの対象(例えば、カウンセラー)へ向かい、表出されれば(すなわち転移が生じれば)、結果として自身の内なる感情への気づきにつながる。

 否定的な感情が転移された際などは困難もともなうが、「転移」は、多くの場合、治療的な意味を持つことも多いらしい。
 私が、最初にきちんと読んだ臨床の本が河合隼雄なので、この辺りの事情は、河合隼雄的なユング、ユングからみたフロイト理解に寄っている部分が大きい気がする(ラカン的な転移ならば、ジジェクの『快楽の転移』あたりが分かりやすい。ラカン的な転移はまたニュアンスが異なる)。

 オンラインセラピーでは臨床的転移が生じにくいという話もあり(『インターネット・セラピーへの招待』)、転移をどう捉えるかは意外重要な問いかも。

 なお私、あらゆる領域でそうなんですが素人理解が多いので、説明が間違っていたらごめんなさい(ご教示いただければ幸いです)。

▼経営や組織論の世界では、転移ではなく「移転(transfer)」と言うことばが使われる。移転されるのは、広義の「知識」だが、言葉化しうる=形式知や、身体的・言語化しにくい=暗黙知の両者が含まれている。

 過去のノウハウを今にどうやって活かすか、あるいは、あるチームで得た成功(ベストプラクティス)をいかに他のチームに伝え、共有していくかは、どのような業界であれ非常に重要な問題だろう。

 私も、広義の「Tranfer」に関心があるので、組織論の文脈でも、いろいろ本を探していたのだが、ようやく組織論の世界でも、知識移転に関するよくまとまった本が出た(正確には出ていたことに気づいた)。

 やっぱり研究している人はいたのね…先を越された感じだわ(笑)。

▼教育・学習の文脈の「転移」の多くが、<個人>と<知識>の関係を描き、臨床心理や精神分析的な「転移」が<人>と<人>との関係を描いているのに対して、組織論的な「移転」は非常にダイナミックである。

 知識が転移される対象は、個人、チーム、組織をまたいでいるし、最近は電子化が進んでいるために空間的にも幅は広い。知識の創造、共有、蓄積など、時間軸な軸も重要である。実践は、なかなか複雑な世界だ。

 にも関わらず、本書では、知識移転プロセスが5つの類型にまとめられていて、非常に分かりやすい。その5つとは…うーむ。唸らされるわ。

 原題はCommon Knowledgeである。個人、チーム、組織など広い次元での「知識共有」に関心のある人はもちろん、ナレッジのコモンズ化に関心のある人にとっても、参考になりそうだ(ホントだったら秘密にしておく本かも)。
 個人的には、異なる「学問領域」間のコンセプトの<転移><移転>プロセスに関心を持った。本書も原点は、状況論的な知識観にあると思われるし。

 というわけで今月は、もうちょっとナレッジ週間を続けようっと。

▼ちょっとおもむきは違うが似た概念として「ミーム」をあげられるのかもしれない。進化論的概念である。もとをたどれば、RNAだってtransferしてるし。ちなみに辞書によれば癌の転移は、a metastatic carcinoma と表記するらしい。物理の相転移は phase transition と表記するとのことだ。

 ウィニコットの「移行対象」はtransitional objectなんだそうだ。
 何かこのあたり重大な秘密が隠されていそうだな。
 「transfer」は非常に興味深いコンセプトであることに違いない。

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