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読書メモ:授業を変える

▼オリジナルは2003年5月に書かれたものです。

▼以前から、読書メモを書きそびれていた『授業を変える』を、最近、読み直したので、これを機に、多少、自分なりに整理してみた。

 本書は、人の学び(How People Learn)に関心のある学生、教員の、ほぼ必読書と言ってもいいテキストである。
(私が、こういう押しつけがましい書き方をするのは極めて珍しいかも)。

 理論的な側面のみならず、最近の実践事例が多く紹介されていて、教育場面でも参考になるはずだ。献リストや引用文献が相当充実しているので研究を深める場合にも重要な手引きになることは間違いない。
 翻訳も、読みやすくて、原著より分かりやすい箇所もあるかも。

さかなはさかな
 さて、どうやって本書のメモを書こうか。

 と思って、以前、本書を日記で取り上げた時の文章を読み直してみたら、過去の私は、コラムで紹介されていたパンプキンパイの話を取り上げ、いつの間にか、話題はさだまさしや、あみん(♪待つわ)に変わっていた。

 どうも私は、全体を鳥瞰的に捉えるのが得意ではなく、ささやかな出来事や記載にとらわれてしまうようだ。
 今回は、その反省もあって、まともな読書メモを書こうと思ったのだが、懲りずにコラムの話題から入ってみよう。

 本書はBoxで紹介されているLionniの絵本なくして語れない気がする。

  • Leo Lionni (Reissue 1987). Fish Is Fish. Random House Childrens Pub

 この絵本は、おそらくLionniの著作の中でもよく知られている名作だと思うが、本書でも数カ所でFish Is Fishが参照されている。

 一言で言ってしまえば、「さかなからみた世界」が何たるかを描いた作品である。

 物語で、さかなはおたまじゃくしと出会う。おたまじゃくしはやがてカエルに成長する。カエルは陸地の世界を、さかなに教えてあげるのだが、カエルにとっての世界と、さかなにとっての世界は、本質的に違うのだ。

 これを、学習の文脈で読むとどうなるのか。『授業を変える』によれば、この絵本に描かれているのは、学びの創造的な側面と危険性なのだそうだ。(以下、引用はすべて翻訳書)。

この童話は、既有知識を基礎にして新しい知識を構築することに内在する創造的な側面と誤解をもたらす危険性の両面を如実に示している(p10)

 人が学ぶということは(あるいは、授業をカエル)ということは、確かに、創造的な営みではあるが、同時に、その人が既に持っている知識の根本的な見直しを迫ることでもあり、容易なことではない。

 本書は、Lionniの世界のおたまじゃくしであり、カエルであると同時にさかなの物の見方を示しているとも言えよう(違うか)。

第1部 学習科学の重要な知見
 前置きはさておき、本書を簡単に整理してみよう。本書は、4部構成になっていて、第1部は、本書全体の見取り図である。本書によれば、「学習と授業」に関わる学習科学の重要な知見は、以下の3つにまとめられるらしい(p14-17)。

  • (1)子どもたちが教室にもち込んでくる素朴概念は、しばしば科学的理論と矛盾する。そのような場合、学校で教えられる新たな科学的な概念や知識を理解するのが難しくなる。また仮にテストに備えて科学的な概念や知識を学習したとしても、教室の外ではまちがった先行概念を保持し続けるだろう。
  • (2)学習者が探求能力を発達させるためには、(a)事実についての幅広い深い基礎知識を身につけ、(b)その事実を概念の枠組みの文脈と関連づけて理解し、さらに(c)スムーズに検索・応用できるように知識を体制化しなければならない。
  • (3)メタ認知能力を促進させる教授法では、生徒たちに学習目標を立てさせたり、その目標への学習過程をモニタリングさせることによって、みずから学習を制御し進めていく能力を高めることができる

 要するに、人は何かを理解しようとする時、自分自身の色眼鏡(既有知識)を通して物事を見ているということである。その色眼鏡の存在にどう気づかせ(メタ認知)、また、必要に応じて修正・拡張、体制化させるか重要ということになるのだろう。

第2部 学びの理論
 第2部は、学習に関する理論の紹介である。認知心理学や発達心理学の概観書で紹介されていた学習論が、コンパクトにまとまっている。

 「熟達」では、人が物事を習熟していく過程、あるいは専門家(熟達者)と初心者の違いについて。「転移」では、学んだことを他の場面でいかに応用するかについて、「認知発達」では子どもは物事をどのように学ぶのか、「神経科学」では、脳のメカニズムについての最新の知見の紹介が行われている。ここまでまとまったテキストが、翻訳されたのはありがたい。

 ちなみに、私のお気に入りのパンプキンパイの話題も、第2部に入っている。分数の授業で「パンプキンパイ」の分割を例に使おうとしたら、生徒は、分数の授業ではなく、味や匂いに気を取られてしまったという話だ。

 ささやかな文化的な違いが、学習に影響を及ぼすこともあるらしい。

第3部 学習環境のデザイン
 第3部は、実際の教育場面で、授業をどのように変えていくかについて、多くの事例や知見が紹介されている。

 学習の場をデザインするという「学習環境」の観点、また第2部で紹介されていた知見を実際の教育場面で活かす「教授法」、生徒のみならず教師の学びという観点でまとめられている「教師の学習」、学習をテクノロジーの面から支える「情報教育」など、非常に密度の高いまとめになっている。

 第3部で繰り返し触れられているのは、学習を促進するための学習環境デザインの4つの指針である。
 「学習者中心」「知識中心」「評価中心」が中心的な指針であり、これらすべては「共同体中心」の学習環境の上に成り立っている。

 それぞれを簡単に整理してみよう。

  • 学習者中心
    学習者中心の環境とは、「学習者が教室にもち込む知識や、技能、態度、信念に対して十分な注意がはらわれているような環境」(p135)のことである。言い換えれば、教師が教えたいことをただ伝達するのではなく、学習者が持っている既有知識(概念や文化)を踏まえた授業展開の必要があるということだろう。
  • 知識中心
    知識中心とは、学習者の「理解に基づく学習」や「転移が生じるような学習」を促すことで、真の意味での「知力をもつ」支援を行うことである(p137)。つまり学習者が既にもっている知識を、いかに変容させるかという観点であり、先の「学習者中心」と重なる部分が多い。
  • 評価中心
    効果的な学習環境をデザインするためには、学習者に対して何らかの「フィードバックを与えたり、修正の機会をもたせること、そして評価されることが学習者の学習目標に沿っていること」が重要とされる。
    形成的評価によって、教師と学習者は自分の学習過程の進歩を可視化したり、モニターすることが可能になる。(p23)
  • 共同体中心
    学びは個人の営みではなく、学校や教室といった集団や組織や、共同体への参加を通した営みであるという考えが、「共同体中心」の基本的な考え方である。そこでは、考えや知識を、個人が独占するのではなく、他者と共有し、共同で吟味することが重視される。

 これらの4つの原則を、いかに授業の中で実現させていくかが、第3部では詳細に描かれる。
 たとえば、知識中心型の学習環境デザインのためには、「それぞれの年齢で何を教えるのが発達的にみてふさわしいのか」(p139)という認知発達的な見方、また「どうしたらある学問分野についての統合的理解を促進できるのか」(p140)といった観点が求められることになる。

 そのためには、学習者中心、知識中心、評価中心、共同体中心の見方を統合的に捉えながら、実践を進めていかなければならない。

  個人的には、知識中心型を実現させる教授法の一つとして、「漸次的形式化」という教授法が紹介されていたのが興味深かった。
 漸次的形式化とは、「生徒が学校へもち込んでくるインフォーマルな概念が、指導の過程でどのように変容しフォーマルな(形式的な)ものになっていくのかを、生徒自身が発見できるように、段階を追って少しずつ支援していく教授法」である(p138-139)。
 この他にもいろいろな紹介があって参考になる。

第4部 まとめ
 まとめには、上記の要約と、政策的な提言が含まれる。

▼というわけで、いざ要約してみようとすると、いつものことながら自分でも分かっていないことに気づかされて、結構愕然とする。結局は、さかなはさかな、カモメはカモメなんだろうな。たぶん。

 なお、第3部の具体例としては三宅なほみ先生の新刊、

 また第2部をさらに深める(とくに言語発達)ためには、今井むつみ先生の新刊が、何かと参考になるのではないかと思います。

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